ペーパック開発プロジェクト
“本当に環境に配慮した製品とは何か?”
未来につながる紙包材の研究にチームで挑戦
プロローグ
コンビニやスーパーのお菓子袋といえば、多くの人がプラスチック素材の袋を思い浮かべるのではないでしょうか。世間で脱プラスチックが進む中、代替品として紙製品が注目されています。大阪シーリング印刷ではこの度、環境に配慮した紙製包装資材「ペーパック」を開発しました。この製品は紙製にも関わらず、独自のコーティング技術により水や油に強く、熱で密封することができます。今回はこの「ペーパック」を開発した担当者3名に誕生秘話を聞きました。
ポイント
- 脱プラスチック!フィルム不使用の紙製包装資材
- 注目度が高い研究のチームリーダーに入社3年目で抜擢!
- 知見のない分野でチャレンジを繰り返し、見事製品化!


Member
メンバー


研究開発部 応用研究開発課
Kさん
2020年入社、農学部卒。紙包材をはじめとした紙製品の開発のほか、生分解性やリサイクルなど環境をキーワードとした研究開発を担当。


研究開発部 応用研究開発課
Iさん
2017年入社、工学科修了。紙やフィルムなど、材質を問わない包材を多く担当し、入社5年目までは剥離紙の研究開発に携わっていた。


研究開発部 応用研究開発課
Mさん
2022年入社、物質系工学専攻修了。フィルム関係の研究開発を担当することが多く、印刷工程のCO₂削減や小規模顧客向けの製品開発に力を注いでいる。
Story 01
リサイクルができないことも?
“紙製の包装資材”の現状とは
紙包材の研究開発がスタートしたのは、世界的に脱プラスチックの動きが広まったことがきっかけでした。大阪シーリング印刷はシール・ラベル業界のリーディングカンパニーとして、社会的責任を果たすためにも、環境に配慮した製品の開発に注力しています。当時、紙とフィルム素材を使用した複合包材は既に出回っていましたが、紙素材をメインにした包装資材は少なく、紙マークがついた製品であってもフィルムが使用されていることがほとんどでした。
「紙マークは、素材に51%以上紙を使用していれば表示できますが、実は内側にフィルムが貼ってあるということも多いんです。ただ、紙とフィルムの複合包材の場合、分離が難しいので紙マークがついていてもリサイクルできない現状があります。」とチームリーダーのKさんは言います。
“本当に環境に配慮した製品とは何か”を考えた際、フィルムを使わない紙の包装資材をつくるという方針が決まり、2020年から本格的な開発が始まりました。




学生時代の経験を生かす人
まっさらな状態から挑戦する人
「私は大学の研究室で古紙屋さんとの共同研究を行っていました。その時に培った基礎知識があったため、入社1年目からこのテーマに携わり、入社3年目の2022年に先輩から引き継ぐ形で、このテーマのチームリーダーを任せていただきました」。
Kさんは学生時代に古紙に関する研究を行っていましたが、同じチームのメンバーであるIさん・Mさんは学生時代の研究分野について、「正直なところ、紙やフィルムの研究はまったくしていませんでした。」と話します。実際、学生時代と会社に入社してからの研究テーマは異なることが多いです。
Iさんは入社5年目で基礎研究開発第1課(※1)から応用研究開発課(※2)に異動し、メンバーに加わりました。「基礎研究開発にいたときの経験からある程度の予備知識はありましたが、“紙包材”に関する知識はほぼゼロでした。Mさんも入社1年目からチームに入ったので、まっさらな二人が一気に加わりました。最初は不安だらけでしたが、Kさんや係長、課長のサポートもあったので安心できました」。
※1 基礎研究開発第1課…ラベルの基本構成のうち、粘着剤や剥離紙に関する研究
※2 応用研究開発課…テープ、包材、インキなどの研究
Story 02
少ない塗工液で理想の性能を
発揮させる難しさ
紙包材の開発は「基材と塗工液の研究」「ラボでの評価」「工場の大型機械を使った試作」「製袋テスト」の流れで進みました。しかし、すぐに二つの大きな課題に直面することになります。
一つ目は「フィルムを使用せず、フィルム包材と同等の性能を出す」こと、そして二つ目は「既存の包装機への適応」でした。
紙をメインに扱う包装資材と言っても、耐水性・耐油性・ヒートシール性(熱と圧力で密封できる)の性能を発揮するには、機能性塗工液を塗る必要があります。一つ目の課題をクリアするためには、研究のスタート地点である「基材と塗工液の研究」から大変だったと、Kさんは言います。
「それぞれの性能を持つ液はありますが、複数の性能を併せ持つ液は少ないです。しかも液は塗る厚さによっても性能が違ってきます。紙比率を上げて原材料費を抑えるためにも、塗工量はなるべく減らすことを心掛けていました。少ない量でも全ての性能がしっかり出るように液を組み合わせたり、グラム単位で塗る量を調整したり、数えきれないパターンを試しました」。




入社1年目の壁
チームワークで研究を前進させる
サンプルを作製後、性能評価を行います。初めてチームに参加したMさんは、このサンプル作りに苦戦しました。
「紙に塗工液を手塗りし、同じサンプルを何枚も作ることが最初は難しかったです。液の量が多いと紙に染み込んでしまうため、量や塗り方を統一する必要があります。チームに入った当時、入社1年目だった私は、塗る技術や経験がなかったので、同じサンプルを作れるように何度も練習を重ねました」。
研究テーマによっては、一人で担当を持つこともあります。しかし今回のようにチームで進めるほうが、効率よく楽しく研究できるとKさんは話します。
「チームのみんなと話し合いながら進めていると、開発スピードが早く感じます。一人で悩む前に相談することで、効率的な評価方法などのアイデアが出て、チームで分担して作業が進められるからだと思います。また雑談を交えながら楽しく作業できるので、時間が経つのも早く感じます」。
Story 03
手作業で進めるラボと
大量生産を行う工場の違いに苦戦
今回のテーマの中で最も時間と労力を費やしたのが、ラボや工場で試作したサンプルの性能評価でした。
「耐水性・耐油性・ヒートシール性など、それぞれの評価が必要なため、かなり時間がかかります。また紙包材の知見がなかったので、評価基準も自分たちで考えて設定しました。評価基準は何が正解か分からず、なかなかゴールが見えないしんどさがありましたね。評価を進める度に新たな問題が誕生し、評価項目が増えていくので、改善と評価の繰り返しでした。ゴールに近づくには、何度も何度も試して一つずつ問題を潰していくしかありません。」と、Iさんは言います。
OSPグループが長年研究しているタック紙(シールやラベルの原紙)などは、評価方法も確立されていますが、今回の紙包材開発はまさにゼロからのスタートでした。最初の評価項目は「耐水性」「耐油性」「ヒートシール性」だけでしたが、ラボや工場での評価を繰り返す中で「滑り性」「カール」など、解決しなければならない項目がどんどん増えていきました。ラボで問題がなくても、実際に機械で塗ると予想通りにいかず、その度に前のフェーズであるラボ評価に戻って、塗工液や基材の研究を繰り返しました。




紙包材を袋にするための“包装機”
使う場所によって異なる条件
そして工場試作では、二つ目の課題である「既存の包装機への適応」に直面しました。多くのお客さまが所有する包装機はフィルム製シート用であり、紙製シートへの対応が難しかったのです。
「環境意識の⾼いお客さまがフィルム包材から紙包材へ問題なくスムーズに移⾏していただけるよう、包装機メーカー数社にご協⼒いただき、実際に包装テストをさせていただきました。包装機は会社ごとにシールの温度や圧力が異なるため、使用条件に応じて設定を調整する必要があります。例えば機械の動く手順を一つ変えるだけで問題が解決したこともありました。広い視点を持たないといけない難しさはありますね。その分、解決策が見つかったときは本当にうれしくて、楽しい瞬間です。」と、Kさんは話します。
工場試作に入ると現場立ち会いや製袋テスト、加工機のテストなどで出張する機会が多くなります。応用研究開発課では軟包装や印刷インキなど幅広い研究を行うため、知見の浅い分野のテーマを持つこともあります。そのため、ラボでの実験だけでなく、現場でのトライ&エラーを繰り返し、少しずつゴールへと近付けていきます。
Story 04
研究職の広い活躍の場
製品採用や海外展示会の参加を経て
構想を含め約5年の歳月をかけて製品化した「ペーパック」は、発表当時、環境配慮型製品として注目されました。社外だけでなく社内からの関心も高く、特に営業部からは「提案の幅が広がる」と多くの問い合わせがありました。OSPグループはラベル原紙の製造からデザイン、印刷まで一貫して行えることが特長で、研究開発部もさまざまな部署と連携しています。「OSPグループの面白いところは、最初の紙作りから製品を世の中に出すまで、広い範囲で関われるところです。工場試作では機械オペレーターに相談し、認証取得には品質保証部に連絡、開発成功時には広報部にプレスリリースを依頼するなど、さまざまな部署と関わりながら日々仕事をしています。」とKさんは言います。
また、珍味やおつまみを手掛けられている株式会社オノギ食品さまの「会津のこづゆ」のパッケージにも採用されました。こづゆは福島県・会津若松市を代表する郷土料理です。環境に配慮した脱プラスチック製品であることや、耐水性・耐油性が評価され、フィルム素材から「ペーパック」に変更されました。古き良き郷土料理に紙の風合いが上手くマッチしました。
Kさんはこのテーマに携わったことがきっかけで、アメリカで開催された展示会に説明員として参加しました。
「海外の展示会に参加できたのは貴重な機会でうれしかったです。日本で大きなテーマの一つとなっている“紙化”ですが、アメリカでも注目されていました。日本とアメリカでは重要視される項目が少し違うことが分かり、世界の現状を体験できる良い経験になりました」。




製品改善と新製品開発へ
チームの力で引き続き奮闘中
無事製品化できましたが、「ペーパック」にはまだまだ課題が残っています。特に価格面では紙はフィルムよりも高価なため、いかにコストを抑えられるかが、今後販路を拡大するための大きな課題になります。
また、「ペーパック」の素材をバンド包装としても使用できるように帯状にした「ペーパックバンド」を新たに開発しました。現在同じチームで製品化に向けてさらなる研究を行っています。
KさんとIさんは「研究はチームでやったほうが楽しい。」と口を揃えます。
「Iさんは他のチームから異動してきてるので新しい視点を持っていて、Mさんは純粋な気持ちで質問してくれたり、新しい気付きを与えてくれました。ゴールが見えないストレスはありましたが、雑談しつつ評価を進めたり、お互いにカバーし合いながら進められるので、チームで本当に良かったです」。
「チームで研究する良さは、気付きが増えることだと思います。評価は数字だけでなく見た目などの項目もあり、その評価は人によって違います。さまざまな視点で考えられることがメリットですし、隣にいて気軽に相談できるので、みんなでゴールを目指せるのはやっぱりいいなと思いました」。
今回初めてチームに参加したMさんは、印象に残ったことがあると話します。
「最初は意見を聞くのを躊躇していましたが、『フランクに質問や相談する方が成長につながるよ』と声をかけていただけたことが印象的で、今でも覚えています。それ以来、チームの人には迷わずすぐに相談するようになりました。気軽に相談できることはチームの良さだと思います」。
多くの課題解決を行いながら、製品化することができた「ペーパック」。
“完全紙製の包装資材”を目指し、これからも研究開発は続きます。
Comment
メンバーコメント
Kさん
入社してから今までメインで開発を行っている思い入れの強い製品です。ゼロから製品にしていく過程すべてがとても大変でしたが、ひとまず形になって良かったです。まだまだ悩みは尽きませんがさらに良い製品が作れるように頑張りたいと思います。
Iさん
このプロジェクトはOSPの中でも新しい取り組みなので、評価から実際のお客さまへご紹介するまで、何もかもが興味深く新鮮な気持ちでいつも取り組めています。自分が関わった製品が売場で見られるのは何よりもうれしいので、これからも良い製品づくりに尽力いたします!
Mさん
プロジェクトに参加した当初は、入社1年目で右も左も分からなかったですが、先輩社員や上司の優しいサポートのおかげで、考え方や評価方法など多くのことを学べました。幅広く知識を学べたおかげで、自分がメインで担当しているテーマにも応用することができたので、参加できて良かったと思います。