
パッケージ制作で培った技術を活用し 観光客向けにパウチ入り酒類を商品化
業種・サービス | : | 酒類製造・販売 |
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本社所在地 | : | 奈良県 |
奈良春日山酒造株式会社 営業部 部長 松清みどり様に、パウチ入り酒類の開発について詳しくうかがいました。大阪シーリング印刷株式会社(以下、OSP)と協業し、日本酒業界では類を見ないパッケージで新商品を展開。持ち運びやすさと地域性を生かしたデザインは、インバウンドを中心に観光客から好評を得ており、付加価値も高められたと実感されています。

お客様の課題
- ・和紙ラベルの印刷にかかる手間とコストを抑えたい
- ・「お酒を手軽に持ち帰りたい」というインバウンド需要への対応
- ・割れる心配がなく持ち運びやすいパッケージの実現

OSPの提案
- ・和紙ラベル印刷のアウトソーシングによる工数削減と品質向上
- ・割れや漏れのリスクが低く、開封しやすいパウチ入り酒を製品化
- ・パウチ入り酒専用の什器開発など、販路拡大のバックアップ
日本酒ラベルの印刷を効率化でき、課題解決能力の高さを実感した
OSPとのお取引が始まった経緯を教えてください。
松清様:ラベルを発注するようになったのが始まりです。酒瓶に貼るラベルに和紙を使うシリーズがあり、以前はそのラベルを内製していました。社内の複合機を使い、絵柄を和紙にコピーしてから、その周りをちぎって風合いを出すのですが、和紙には個体差があります。複合機では位置の調整が難しく、失敗も少なくありませんでした。出荷数が増え、忙しいときには1人のスタッフが丸一日、つきっきりになるほど手間がかかっていたんです。対策を検討していたところ、OSPさんから提案を受けて外注化に踏み切りました。

どのような部分でお役に立てているのでしょうか?
松清様:1枚ごとにサイズ差がある和紙でも、デザインが紙の中央に合うよう細かく位置を調整し、少量ずつ納品してもらっています。そのおかげで和紙のロスが大幅に減りました。自社で印刷していたときよりも、色味や品質も安定しています。発注費用は発生しますが、削減できた人件費や材料費を考えると、しっかりコストカットできています。こちらの細かなリクエストに応えてもらい、効果も出たので、OSPさんは顧客の課題解決に長けていると感じています。
またトレンドを踏まえた提案もいただき助かっています。中でも「パウチにお酒を詰めて専用の箱で梱包する」というアイデアは魅力的で、お話を聞いてすぐに取り組むことを決めました。もともと、シドニーで開かれる「Australian Sake Festival 2024」に出展する予定だったので、急ピッチで開発を進めました。
パウチにお酒を詰め、紙箱に入れることで海外への持ち運びが容易に
パウチ入りのお酒の特長を教えてください。
松清様:瓶との大きな違いは、まず割れないことです。当蔵は観光地の近くにあり、海外からのお客様も多く来店されます。以前から「日本酒は好きだけれど、重いし割れるのも心配で、たくさん持ち帰れない」という声をいただいていました。パウチ詰めはその弱点を克服できただけでなく、少量ずつたくさんの種類を買いたいという彼らのニーズにもマッチしました。さらに、1袋100ミリリットルという少量のため、空港の手荷物検査を通過することができます。街で買ったお酒を機内で飲む、という新しい体験を提供できるのも魅力ですね。

運搬中は漏れる心配がないのに、開封は簡単というのもポイントです。箱の角を開けると内部のパウチがあらわになり、斜めにミシン目が入っています。はさみを使わなくてもきれいに切り取ることができ、手軽に楽しむことができる仕様になっています。日本酒は容器に充てんした後、加熱して発酵を止める「火入れ」を行います。耐熱性のある素材を採用したのでパウチごとに火入れでき、個包装でありながら生産効率への影響も最小限です。素材と加工の知識が豊富なOSPさんならではの方策でした。

現在は、奈良にちなんだ和歌をあしらった「百人一首シリーズ」と、勇ましい姿で人気を集めた奈良公園の雄鹿・ロクの写真をプリントした「ロクさんシリーズ」があり、両シリーズとも6種類を展開しています。海外向けに果実酒の製造にも力を入れている当蔵にとって、酒造技術の幅広さを伝えられる点もぴったりです。しかも「どれを見ても奈良のお酒だと伝わりやすい」という感想をよくいただきます。外箱のデザインの自由度の高さも、お土産にとって見逃せません。飲んだ後も部屋に飾って楽しんでほしい、という意図を形にでき満足しています。既存ラベルと比べ、裏面に盛り込むことのできる情報量が増えたので、品質表示など不可欠な内容のほか、和歌の意味や写真の説明を日本語と英語で記載しています。


新製品への反応はいかがですか?
松清様:当初の狙い通り、酒フェスティバルでは多くの方に興味を持っていただくことができました。その後は、発売から2カ月ほどで複数のメディアの取材をお受けし、さらに奈良市のふるさと納税への参画も決まるなど注目度の高さを感じています。現在は市内の土産店や一部コンビニで取り扱っていただいており、外国人を中心に好評を得ているようです。少量パックであることに加え、インバウンドを意識した強気の価格設定ですが、課題をクリアして需要をつかむことで、お客様に喜んでいただくことができました。

さらなる販路拡大に向け準備も進めていますが、特に百貨店や空港内の店舗からは「ぜひ店頭に置きたい」とうれしい反応をいただいています。現在はOSPさんのご提案で、一緒にパウチシリーズ専用の什器を開発しているところです。これまでにない形の商品なので、売り場での並べ方や見せ方も重要です。具体的な陳列のイメージまで示すことができれば、より多くの小売店さんの背中を押せるはず。販路を広げる施策にも積極的に、しかも先回りする形で協力してくれるOSPさんの姿勢は心強いですね。
品質同様にデザインも重要。頼れるパートナーとして伴走に期待
酒造業者にとって、パッケージはどのような役割を持つのでしょうか?
松清様:お酒の味を想像してもらったり、商品の背景をお客様に伝えたりするためには、欠かすことのできない要素です。私たちは、中身のお酒の品質にはもちろん自信を持っていますが、見た目でさらに価値を上げてくれるのがパッケージです。関心を惹きつけ、買いたいと思ってもらえるデザインがあれば、こちらが詳しく説明する前に購入を決心される“ジャケ買い”の効果まで期待できます。

今後、OSPに期待されることは何でしょうか?
松清様:他の商品のパッケージも提案をいただいていますが、クオリティの高さに毎回驚かされます。日本らしさを生かしながら、当蔵のこだわりが伝わるよう工夫されたものばかり。ラベルやシールをご覧になった多くの外国の方が「キュート!」と褒めてくれます。OSPさんは私たちと同じ目線で、商品のことを思ってくれていると感じますし、実際に売上にもつながっています。これからも良きビジネスパートナーとして、「奈良酒を世界に」という思いを叶えるサポートをしてもらいたいですね。
奈良春日山酒造株式会社について

世界遺産「春日山原始林」のふもと、名水の地として知られる「清水町」で江戸時代以前に創業した酒蔵を1877年(明治10年)に継承。県内では唯一、焼酎の製造免許を保有しており、本格焼酎のほか、梅酒などのリキュール、みりんの製造・販売にも注力する。清酒発祥の地とされる奈良で造る「奈良酒」の魅力を世界に向け発信している。